悪魔の運動会
【笠井周平】
「ちょっと笠井‼︎早く投げて、時間ないから‼︎」
茜に急かされる。
久米茜は俺たち野球部のマネージャーであり、マドンナだ。どんなに辛い練習も、茜の笑顔で頑張れる。
男女のペアを組んで玉入れに臨んだ時、俺の相手は寺脇リカだった。
けれど、素早く玉を拾えるわけもなく、途中で茜が手伝ってくれた。
俺と浩二の2人に、絶え間なく玉を配るのは、それはそれで重労働だろう。
もたもたしている、不気味な寺脇リカとはえらい違いだ。
「残り時間、30秒」
懸命に投げ入れるが、もう肩が上がらない。
でも同数くらいまでは追い上げたかもしれない。ヤンキー連中は、間宮を狙うだけで全くカゴに玉を入れてはいないからだ。
「あっ、これ」
寺脇リカが、玉を差し出してきた。
少しはにかみながら、両手に大事そうに持ってきたのは、事もあろうに白い玉だ。
こいつ馬鹿か?
自分の組の色も忘れたってのか?
知らん顔しようと思ったが、半ば押し付けられるようにして受け取ってしまった__。
白い玉を。
白くて【重い】玉を。
思わずリカを見ると、秘密を共有したような妖しい笑みを浮かべている。
「あと20秒‼︎」
そうだ、なにも当てる必要はない。カゴにちょっとぶつけるだけ。
「10秒‼︎」
それくらいなら__先に向こうが投げてきたんだから。
カウントダウンに背中を押されるように、俺は玉を放った。
アンダースローで投げたのは、まだ迷いがあったからかもしれない。
しかし、試合終了のホイッスルが鳴った。