悪魔の運動会


【笠井周平】


「ちょっと笠井‼︎早く投げて、時間ないから‼︎」


茜に急かされる。


久米茜は俺たち野球部のマネージャーであり、マドンナだ。どんなに辛い練習も、茜の笑顔で頑張れる。


男女のペアを組んで玉入れに臨んだ時、俺の相手は寺脇リカだった。


けれど、素早く玉を拾えるわけもなく、途中で茜が手伝ってくれた。


俺と浩二の2人に、絶え間なく玉を配るのは、それはそれで重労働だろう。


もたもたしている、不気味な寺脇リカとはえらい違いだ。


「残り時間、30秒」


懸命に投げ入れるが、もう肩が上がらない。


でも同数くらいまでは追い上げたかもしれない。ヤンキー連中は、間宮を狙うだけで全くカゴに玉を入れてはいないからだ。


「あっ、これ」


寺脇リカが、玉を差し出してきた。


少しはにかみながら、両手に大事そうに持ってきたのは、事もあろうに白い玉だ。


こいつ馬鹿か?


自分の組の色も忘れたってのか?


知らん顔しようと思ったが、半ば押し付けられるようにして受け取ってしまった__。


白い玉を。


白くて【重い】玉を。


思わずリカを見ると、秘密を共有したような妖しい笑みを浮かべている。


「あと20秒‼︎」


そうだ、なにも当てる必要はない。カゴにちょっとぶつけるだけ。


「10秒‼︎」


それくらいなら__先に向こうが投げてきたんだから。


カウントダウンに背中を押されるように、俺は玉を放った。


アンダースローで投げたのは、まだ迷いがあったからかもしれない。


しかし、試合終了のホイッスルが鳴った。








< 116 / 453 >

この作品をシェア

pagetop