悪魔の運動会
全速力で走った。
もうゴールは見えている。
猿とライオンが引くゴールテープが風で揺れているのも見える。
いくらなんでも、追いつけるはずが__。
「えっ⁉︎」
紅白の応援が急に盛り上がった。だから後ろを振り返った。たぶん、美咲が平均台を下りた頃だろう、と。
それなのに、美咲は真後ろにいた。
今にも追い抜かれそうで__。
「残念だったわね」
私は息も絶え絶えで、胸が焦げるように熱くてこんなに苦しいのに、美咲は薄っすらと笑みを浮かべてそう言った。
私を追い越していく途中で。
しかも、どんどん美咲の背中は遠ざかろうとしている。
まさか、こんなに足が速かった⁉︎
樋口美咲が体育の授業に参加しているのなんて、見たことがない。運動なんて汗臭いことが嫌いだと豪語していたのに__。
ま、負ける⁉︎
私には、離れていく美咲に追いつき、抜き去るだけの脚力はない。
もう手の届かない距離まで、あと僅か。
今なら間に合う。
今なら、まだ美咲を食い止めることができる、
たとえ勝てなくても、負けないように__。
「ちょっと何するのよ⁉︎離しなさいよ!」
「ご、ごめん‼︎樋口さん、ごめんなさい‼︎」
美咲の腰にしがみついた私は、ただただ謝った。
「なんて卑怯なの⁉︎でも、そんなことしても、あなたも走れないんだから、勝てないじゃないの‼︎」
「違うの、そうじゃないの‼︎」
「なにがよ⁉︎」
「私も囮なの‼︎」