悪魔の運動会
【寺脇リカ】
くっそ。
あともう少しだったのに。
まさか久米茜のほうに乗り移るとは。
相原友子はかなり用心している。こうなると、私が動いて不安定にさせても意味がない。そうこうしているうちに、向こうが先に落ちるかもしれない。
だって、白組のピラミッドは今にも崩れようとしている。
誰がバランスを崩したわけでもないのに、何故だかずっと揺れていないか?
中段から見ていた私は、もう時間がないことを悟った。
ブーン。
蜂が旋回している。
刺されるかもしれない。
だから身を引くのは当然のこと。
そう言い聞かせた私は、なんの脈絡もなく体を起こした。
だが、いち早くそれに気づいた相原友子が、また体を久米茜のほうに移動させようと、重心を傾けた。
「えっ⁉︎」
ギョッと私を見下ろす。
その足首を、掴んだ私を。
幸い、下段のピラミッドは前を見ているだけ。隣の茜も、蜂が怖いのか目を閉じている。
体を起こした私と、今にも倒れそうな相原友子とが力を引き合っているなんて、誰にも分からない。
「は、離して‼︎」
そう足を引く力が強まった時、お望み通り、私はパッと離してやった。
だって離してって言うんだもの。
茜の背中を通り越し、山から転げ落ちていく相原友子に、私は手を振った。
さ・よ・う・な・ら。
ドスン‼︎と地面に突っ伏した瞬間、試合終了のホイッスルが鳴った__。