悪魔の運動会
【西川浩二】
「ありがとう」
茜の声がした。とても心のこもった、ありがとう。
俺を狙っていた銃口が動く。それは、小走りで駆けていく茜を狙っていた。
なにかが小刻みよく破裂する音がして__。
振り返ると、ちょうど茜が地面に倒れるところだった。
「茜‼︎」
弾かれたように駆け寄る。
「茜‼︎大丈夫か⁉︎しっかりしろ‼︎」
突っ伏していた茜を抱き起すと、その肩から血が滲んでいた。
「浩二、もう行って__お願い」
消え入りそうな声で、俺に懇願する。失格者は1人でいいと、自分だけでいいと腕を掴み、そして押した。
とても弱い力で__。
すでに屋上は動物園と化していた。
どこに行こうが捕まるか、撃たれるだろう。それも、失格者の茜だけ。それが分かっているから、茜は俺を押す。肩を撃たれているのにもかかわらず。
「これでもう、誰かが落ちるの見なくていいから」
そう言って、力いっぱい笑った。
まるで、俺を安心させるかのように。
「俺ももう__見たくない」
静かに伝えると、そのまま茜を抱き抱えた。肩に触れてしまったのか、痛みに顔をしかめる。
「もうちょいの辛抱だからな」
「__浩二?」