悪魔の運動会
【伊藤明日香】
みんなが私を見ている。
それは、演技前の静けさに似ていた。
高揚感と、なんともいえない深い落ち着き。筋肉が踊るのが分かる。今、地球上で主役なのはこの私。その視線を侮蔑に変えるも羨望に変えるも、私の演技次第。
「ホントに大丈夫なの?」
玉に入るのを支えてくれる立花薫は、少し心配そうだ。
恐らく相手が__戸田裕貴だからだろう。
今も私を睨みつけ、怖気付かせようとしている。普段なら、すぐに目を伏せただろう。でも、この競技は私のテリトリーといってもいい。睨み返してやった。
大玉転がしが私の得意分野ではない。ただ私は__。
「大丈夫。どれだけ速く転がしても、私は目を回さないから」
そう、私は目を回さない。
どれだけクルクル回っても、平然と歩くことができる。
大の字になって手足を固定する形で、玉の中に入った。
「それでは始めます。よーいスタート‼︎」
背中を思い切り押されるように、玉が転がっていく。
地面だと思ったら次の瞬間には空を見上げ、眩しいと思えば砂埃が舞い上がる。
思った以上に速い。
私はゆっくり息を吐き、目を閉じた。
これでいい。
天地がひっくり返る玉の中で、私は思い出していた。
これまでの自分を__。