悪魔の運動会
いつも私はスポットライトの中心にいた。
体操選手だった両親から英才教育を受け、同じく器械体操の選手を志した。
幼い頃から頭角を現し、様々な大会を総なめする。
床を自在に跳び回り、平均台で美しくバランスを保つ。
天才少女現る⁉︎と世間から持て囃され、このまま頂点に上り詰めることを周りは疑いはしなかった。もちろん、私が1番そう信じ込んでいた__。
けれど、夢は呆気なく壊れる。
とても脆くて儚い。
練習の帰り道だった。帰路についていた2年前の私は、前から迫ってくるバイクのライトと爆音に、身を竦(すく)めた。
ほんの一瞬のこと。
肩から下げてあった鞄を引ったくられそうになり、反射的に私は逆らった。
もしもあの時、素直に手放していれば良かったが、もう遅い。バイクに引き摺られるようにして転倒し、足首を骨折した。
同時に、選手生命も折れたというわけだ。
私にはもう何もなかった。
周りの子たちはハナから何も持っていなかったけれど、あるはずのもの、あったはずのスポットライトはもう戻ってはこない。
それでもライトに惹き寄せられるように、樋口美咲と仲良くなった。
それは、私が美咲の隠された努力を知っているからともいえる。
これが今のところ、私が振り返る自分自身だ。
薄っすら目を開けると、1番にバットが目に飛び込んできた。