悪魔の運動会


【野々村哲也】


大玉転がしの勝負は目に見えていた。


全員で裕貴が入った玉を押すが、見る見るうちに差が開いていく。


人選ミスだ。


向こうは体重の軽い伊藤明日香が中に入った。力で押さなくても自然と転がっていく。


玉の勢いそのままに、グランドの円周からそれないようサポートしているだけだ。


こっちは押してもなかなか前に進まない。それに加えて__。


「オエッ!オエエーッ‼︎」


目が回ったのか、裕貴が嘔吐(えず)く声が耳に飛び込んでくる。


俺は顔をしかめつつ、ちょっと愉快な気もした。


なにをしても逆らえないヤツが、玉の中でくるくる回って苦しんでいる。それを転がしてるのは、この俺ってわけで。


ほくそ笑みながら、より転がしてやった。


いつも頭ごなしに押さえつけられている仕返しだ。


大玉から裕貴が出る頃には、もう伊藤明日香はバットを半分ほど回し終えている。


しかも、どういうわけか全くフラついていない。


それは明日香が器械体操の選手だったからと、樋口美咲が言った。だから志願したのだろう、と。


こりゃ、負けるな。


負けたら責任を取らないといけない。


そう間宮と約束したし、もし俺と裕貴が結託したとしても(もちろん脅してくるはず)、間宮と相原たちのほうが勢力は大きい。


投票で負けるのも目に見えている。






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