悪魔の運動会
【戸田裕貴】
「クソッ‼︎どこ行きやがった⁈」
まるで足の感覚がない。
胃が暴れ倒して、地面がグニャリと柔らかい。
それでも俺は、相手チームの伊藤明日香を捉えた。
なにを勘違いしたのか、勝ったと思ってやがる。
誰が真面目にバットで回るかよ‼︎
バットと聞いた時、俺は相手を叩きのめすことしか頭になかった。
ただ、大玉転がしが俺を悪酔いさせたのは予定外だ。
それに__あいつが平然としてるのもだ。
一発で仕留めてやろうと思った一撃は、見事にかわされた。
というより、狙いが定まらない。
振り回している間に、伊藤明日香の背中は遠ざかっていく。
「ちくしょー‼︎ぶっ殺してやる‼︎」
力任せに叩き斬った勢いで、足がもつれて転んでしまった。
何度も何度も、地面にバットを振り下ろす。
今頃、先にゴールしてるだろう。
「クソッ‼︎クソクソクソ‼︎」
バットが歪み始めた。
この俺が負けるなんてあり得ない。
あの女、マジで殺してやる。
競技なんて関係ない。投票なんて知ったこっちゃない。
先にゴールしようが、そんなことどうでもいい。
今から行って、その頭にバットを___?
「えっ?」
俺は間抜けにも、見上げていた。
自分にバッドが振り下ろされるところを。