悪魔の運動会
【伊藤明日香】
今でも時折、フッと思い出すことがある。
強い光に急に目が眩(くら)んで、津波のように襲ってくる悪意に呑み込まれる自分を。
恐らく、これから一生、付きまとうだろう。
私の輝かしい人生を台無しにした、無差別な悪行。
震える足でゴールまで駆け出していた私は、ふと立ち止まった。そして振り返る。
これ以上ない罵声を吐き、バットを振り回す戸田裕貴。
正面に向き直ると、ゴールはもうすぐそこだ。
それなのに私は、来た道を戻っていた。
ゆっくり、ゆっくりと。
悪意の波をかき分けるかのように。
地面に転がっているバットと、地面に転がってまでバットを振り回す悪意の根源。
私は__バットを手に取った。
こんなに軽いのかと思った。
バットも、こいつも。
思っ切り振り下ろす。
鈍い音がしたが、それは頭蓋骨が砕けた音__ではなかった。
鎖骨だろうか?
咄嗟に身をかわしたのはさすがだが、続け様に太ももを強打してやった。
聞くに耐えない悲鳴を上げて、のたうち回る。
「__や、やめろ‼︎」
恐ろしいものを見る形相で、私を見上げるその頭を、私はかち割ってやった。
これまた腕で致命傷をカバーしたが、骨は折れただろうか。
私はそれからも、バットを振り下ろし続けた。
何度も何度も。
何度も何度も__。