悪魔の運動会
「もうやめろ‼︎」
誰かの声が聞こえた。
それでもバットを振り下ろす手は止まらない。
砕かなければならない。
私を襲った悪意を打ち砕くんだ。それはもう粉々に。
塵になればいい。
なにもかも、なくなればいい‼︎
「た、頼む‼︎」
あの戸田裕貴が身を丸めて怯えている。
それでも私は止められない。
別の私がどこからか見ているようだった。別の私は知っている。これは見当違いだと。
それでも私は止められない。
「明日香‼︎やめて!」
これは美咲の声だ。
美咲だけは違ったような気がする。私が襲われた時だって、同情することはなかった。だから私は、樋口美咲と親しくなったんだ。
それでも__。
それでも私は止められない。
もう、止められない。
こいつを消し去るまで。
私は叩き続けるだろう。
バットが血に染まっていく。きっと、私の心も真っ赤だろう。
もう手に負えないくらい。
誰か止めて欲しいと、別の私が叫んでいる。けれど誰の言葉も届かない。やめろというだけでは、届かないんだ__。
「伊藤さん‼︎やめて!」
これは相原友子の声だと分かった。
いくら女子のまとめ役でも無理な話、そう思って最後の一撃を振り下ろそうと__。