悪魔の運動会
【安藤直人】
俺は振り返らない。
振り返らずとも、火の粉が降り注いでくるのが分かった。
ゴールまで距離にして20メートル。
でも、もう間に合わない__。
このまま周平を犠牲にするなんてこと、俺にはできない。
投票するしか仕方ないのか。
一刻一秒を争う苦渋の選択を、ぎりぎりのところで下そうとした時だった。
「安藤!行け!」
後ろの周平が、炎に負けずにそう叫んだ。
その理由が、俺の視界の端にも飛び込んできた。
白組が、脱線したんだ。
ムカデを脱ぎ捨て、炎に焼き尽くされるのを回避する選択。
旬は棄権を選んだ。
「だから行け!」
力強い声に背中を押されるように、俺たちはラストスパートをかけた。
もう誰も振り返らない。
あと10メートル。
前に突き進むだけ。
あと5メートル!
熱風にも吹き押されるように、俺たちムカデはゴールになだれ込んだ。
思わず倒れ込む俺の上に、全員が前のめりに倒れた。
炎は__。
アラジンのランプに煙が吸い込まれるように、スーッと消えていく。
間一髪、ムカデがラインを踏むほうが早かったんだ。
「紅組の勝利」