悪魔の運動会
【立花薫】
こう着状態が続いていた。
絶対にこちらからは仕掛けない。
向こうは追いかけてくる素振りを見せ、間合いを詰めようとするがその都度、引き離しにかかる。
一気に攻め込まれない程度の距離を、必ず保ったまま。
「そうやっているうちに、向こうの馬が弱るはずだ」
安藤の作戦は一見、地味だが効果的だ。
間宮はすぐに終わらせたかったはず。だから余計に参っているだろう。
でも__。
「ずっとこのままじゃ、私たちも勝てないわよ?」
「分かってる。タイミングを見計らうんだ」
「タイミングねぇ」
それが最も難しいと感じた。
絶対の機会が訪れたとしても、最終的にはリカが間宮から帽子を奪わないといけない。
この貧弱なだけの女に、そんな度胸があるのか?
たとえ馬が弱っても、間宮とリカじゃ勝負は目に見えている。
馬を潰すしかない。
帽子で勝ち名乗りを上げるんじゃなく、馬そのものをぶっ潰して、間宮を落馬させる。
それが1番いいと私は思う。
だから私が先頭なんだ。
向こうの先頭は樋口美咲。申し訳ないけど、潰させてもらう。それしか勝ち目はないから。
「そのタイミングとやら、ちゃんと教えてよ」
見極めは安藤に任せたほうがいいだろう。
わかったと頷いたようだったが、そのタイミングはとんでもない方向から急にやってきた。
降って湧いたように__。