悪魔の運動会
【間宮旬】
まさかのフライング。
直人の狙いは悪くはなかった。
そこで少しでもリードを稼いでおきたかったのだろう。
あの正直さが売りの直人がそこまでするのは、勝負にこだわっているからであって、腹は立たない。逆に俺も燃えてきた。
俺にイエローカードはない。
次で賭けに出ても、まだ懐は痛まない。
よし、お株を奪うようで申し訳ないが、スタートダッシュさせてもらう。
「それでは位置について」
クラウチングスタートで膝をつく。
「よーい」
腰を高く持ち上げた。さっきはこの時点でもう直人は飛び出した。フライングがないと思ってのことだ。
号砲が鳴るその寸前、駆け出そうと__。
っ⁉︎
視界の端に動きがあった。
直人の体が動いていく。
まだ空砲は鳴っていないのに、またフライングを?
失格になるのを恐れもしないで⁇
そんなことを考えていたら、つい反射が遅くなってしまった。
号砲とほぼ同時に駆け上がっていく直人の尻を、後ろから追いかける。
フライングに尻込みするどころか、博打に出た直人とのリード。
せっかくの大博打も、100メートルもしないうちに埋めることごできた。
そして逆転する。
足の速さでは負けない。
それは覆しようのない、事実だから。