悪魔の運動会
【安藤直人】
旬の足が速いことは、体育の授業でも分かっていた。
あれでも多分、手を抜いている。
妙な注目を浴びないよう、誰も近くに寄せ付けない。
負けるだろう。
でも、本気にさせればいい。
自分で消している火を、灯すことができればそれでいい。
みんなが興味津々で見ているからだ。
「よーい、ドン‼︎」
スタートと共に飛び出した。
ん?
驚いたことに、どんどんと差が開いていく。
そうか__元々やる気がないのか?それならそれでいい。ぶっちぎって勝ってやる。
俺はギアを上げた。
足は速いほうだ。
いつも運動会ではアンカーだ。
みんなが俺に繋いでくれたバトンを、決してムダにはしない。
全速力で走った。
歴然とした差ができているだろうと振り返る。
「っ⁉︎」
間宮旬は、真後ろにいた。
それも、いたって涼しい顔で。
そして追い越していく。
薄っすらと笑いながら。
クラスの盛り上がりが聞こえてくる。誰もが間宮旬を認め、一目置いた瞬間。
それこそがクラス委員としての俺の狙いだったのに、どうしてか体が熱くなる。
___負けたくない。
俺は、負けたくない。