悪魔の運動会
【安藤直人】
「早くしろよ」
旬がそう言った。
失格だと告げられた、旬が__。
ほぼ同時にゴールに駆け込んだ。どちらが勝っていても不思議じゃない、僅差だったろう。
失格者の名を呼ばれ、辛うじて立ち上がり、振り返ると旬は、あの時と同じ顔をしていた。
唯一、俺が勝ったあの時と同じ、どこか晴れやかで清々しく、負けたなんて嘘みたいな__。
「そんな顔するなよ」
きっと、俺の方が絶望に打ちひしがれた、情けない顔をしているんだろう。
気を抜けば、何かが溢れ出しそうだった。
とめどなく、溢れてきそうだった。
「勝っても負けても恨みっこなしって言ったろ?でも__お前が悲しんでくれるから、俺の悲しみは半分だ」
「旬__」
「直人、後、頼んだぞ」
グッと握り拳に力を入れた。
さっきからずっと、俺の胸に突き出されている拳。
早くしろと催促する。
別れの挨拶だ。
「きっとまたすぐ会える。って、恋人みたいなこと言わせんなよ」
「__約束だからな」
俺は痛いほど握りしめている拳を、胸に持ち上げる。
動物たちが、旬を連れて行こうと取り囲む。
「ああ、約束だ」
「約束だ」
俺は、旬の拳に、自分の拳を打ちつけた。
別れの__再び会うまでの約束を、拳と拳で交わしたんだ。
きっとまた会える。
きっと__。