悪魔の運動会


【野々村哲也】


飛び込むのを躊躇(ためら)っていると、寺脇リカが女子連中にプールに突き落とされた。


派手な水しぶきを上げた後、水面は静まり返る。


__何も無い?


ただ俺たちが勝手に怯えているだけか?


それなら、すぐにでも飛び込まなくちゃならない。


視界の端で、間宮が動くのが見えた。


間宮も飛び込もうとしている‼︎


つられるように駆け出した俺は、間一髪のところで踏み止まった。


「ちょっ、なによあれ?」


女子が、寺脇リカが落ちた辺りを指差す。


あれだけ静かだった水面が、油が跳ね上がるように徐々に揺れ動き始めた。


細かく激しく、水と水がぶつかり合う。


「__ピラニアだ」


同じく飛び込もうとしていた、野球部の小林健が呟いた。


リカの体を喰い散らかしたのか、どう猛な牙を持った無数のピラニアが今や、暴れ回っている。


もしあの時、飛び込んでいたら今頃は跡形もなく骨となっていただろう。


これじゃ、誰も向こう側なんて行けない。


そうこうしている間に、ピラニアよりも恐ろしい鬼が目覚めて__し、まう?


振り返ると、そこに倒れていたはずの裕貴が居ない。


あそこで死んだように倒れていたのに。


できれば死んでほしかったのに__。


視線をプールに戻すと、目の前に裕貴が立っていた。


そして俺にこう言った。



< 350 / 453 >

この作品をシェア

pagetop