悪魔の運動会
【野々村哲也】
飛び込むのを躊躇(ためら)っていると、寺脇リカが女子連中にプールに突き落とされた。
派手な水しぶきを上げた後、水面は静まり返る。
__何も無い?
ただ俺たちが勝手に怯えているだけか?
それなら、すぐにでも飛び込まなくちゃならない。
視界の端で、間宮が動くのが見えた。
間宮も飛び込もうとしている‼︎
つられるように駆け出した俺は、間一髪のところで踏み止まった。
「ちょっ、なによあれ?」
女子が、寺脇リカが落ちた辺りを指差す。
あれだけ静かだった水面が、油が跳ね上がるように徐々に揺れ動き始めた。
細かく激しく、水と水がぶつかり合う。
「__ピラニアだ」
同じく飛び込もうとしていた、野球部の小林健が呟いた。
リカの体を喰い散らかしたのか、どう猛な牙を持った無数のピラニアが今や、暴れ回っている。
もしあの時、飛び込んでいたら今頃は跡形もなく骨となっていただろう。
これじゃ、誰も向こう側なんて行けない。
そうこうしている間に、ピラニアよりも恐ろしい鬼が目覚めて__し、まう?
振り返ると、そこに倒れていたはずの裕貴が居ない。
あそこで死んだように倒れていたのに。
できれば死んでほしかったのに__。
視線をプールに戻すと、目の前に裕貴が立っていた。
そして俺にこう言った。