悪魔の運動会


【小林健】


戸田裕貴が真っ先に、水飛沫を上げて飛び込んだ。


じんわりと赤く染まっていくプールを泳いでいく。


勝ち残るのは1名。


でも__と、俺は思う。


同じ野球部の周平も浩二も、マネージャーの茜もみんな居なくなった。いの一番に失格となった俺がこうして生き残っているというのに。


それなら、争わないのが得策じゃないか?


ピラニアが放たれたプールに飛び込むなんて無謀なこと。別に勝ち上がらなくていい。動かないで助かるなら、俺はこのまま裕貴が泳ぎ切るのを眺めている。


「間宮くん‼︎」


裕貴の後を追いかけようとする間宮を、相原が引き止めている。


危険に身を投じるのを見す見す見ていられないのだろう。


それには俺も同感だ。


勝ち残ろうという間宮の気持ちも分からないでもないが、このままこうして__。


「ここから生きて出られるのは、たった1人です」


無情で平坦な声が、プールサイドに反響する。


勝たないと、生きて出られない⁇


ピラニアどころの話じゃない。勝たないと。前を行く裕貴に追いつき、追い越さないと助からない__。


俺は慌ててプールに飛び込んだ。


別の「何か」が追ってきているのも知らずに。






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