悪魔の運動会
【小林健】
鮫だ__。
プールの端っこを目立たぬよう泳いでいた俺は、そこにどデカイ背びれが潜んでいるのを見て取った。
進路が断たれた。
しばらくにらみ合っていた裕貴が、そんなことお構い無しに真ん中を突っ切る。
そこに物凄いスピードで突っ込んできた鮫が、そのまま速度を緩めることなく、裕貴の体を飲み込んだ。
悲鳴さえも聞こえない。
それは一瞬のことだった。
い、今しかない⁉︎
進路をやや中央よりにし、俺はクロールで進んだ。
俺が1着だ。
間宮と相原には悪いが、向こう岸に1番にたどり着くのは、この俺だ‼︎
血の匂いが容赦なく鼻から入り込んでくる。
なんだか生温かい。
これはきっと、今しがた喰われた裕貴に違いない。
無謀な性格が仇となった。俺にとっては絶好の囮だが。
悪いな。
そんな風に祈りながら、鮫の隙間を掻い潜ると__。
「た、助けてくれ‼︎」
突然、目の前に裕貴が現れた。
俺に向かって手を差し出している。
それを俺は、反射的に掴んでしまった。助けるつもりなんて毛頭ない。ないのに、掴んでしまったんだ‼︎
流れに任せるように、掴んだ手首を引っ張る。
「__っ⁉︎」
手は、そのまま引っこ抜けた。
それは、肩から下を食い千切られた手だった__。