悪魔の運動会
【相原友子】
これが最後のチャンスかもしれない。
間宮くんが、戸田裕貴を抑え込んでいる「今」が。
2人の脇を通り抜け、ゴールまで泳ぎ切る。
へりに手をつき、水に浸かったまま振り返るが、さっきまでそこにいた間宮くんが見当たらない。
まさか、裕貴に⁉︎
プールの側面を蹴って戻ろうかと考えた。
すぐに助けないと__でも、とも思う。
間宮くんは、身を呈して私に先に行けと言った。私が勝って、また安藤くんの支えになってやれと。
此の期に及んで、運動会に残ったみんなを心配する。
間宮くんらしいと言えば、らしい。
けれど、生きて出るのは1人だけだと言っていた。たった1人だと__。
それが分かっていて、私に「行け」と言ったんだ。
今ここで戻るのは、その気持ちを裏切ること。
__ごめん、間宮くん。
私はへりを掴んで、体を持ち上げた。
「っ⁉︎」
すぐに再びプールに体を沈める。
そして息を止めて潜水する。
波打つ鼓動が聞こえないよう願っていた私は、水中で目の前に飛び込んできた「もの」に驚いて、水を吸い込んでしまった。
咳き込んで水面に顔を出した私の前に、同じくヌッと浮かび上がってきたのは__。
「どこ行くの?相原さん」