悪魔の運動会


【相原友子】


知らなかったといえば、ウソになる。


寺脇リカがイジメに遭っていた。


うちのクラスに根深いイジメが存在していることを、私は深刻に捉えていなかったんだ。


安藤くんとも相談した。


クラス会も開いた。


担任の新垣はただ熱く語るだけで、根本の問題は解決されない。


見た目には和らいだかと思い、私はそれを信じた。信じることが都合が良かったからだ。それでも私はリカをしつこいくらい気遣った。当のリカは心を閉ざしていたが__。


この運動会によって、日頃の鬱憤を晴らそうというリカの気持ちは分かる。


だからリカが非協力的だろうが、誰かを陥れようが、多かれ少なかれ私たちの誰もがそうだ。


__お腹が熱い。


なにかで刺されたみたい。


お腹は熱いのに、急速に身体がは冷えていく。外枠から順に、やがてそれは心まで凍らせてしまうだろう。


立っていられなくなり、水の中に沈んでいく。


不敵に微笑むリカが、プールのヘリに手を掛けた。


「__ダメ」


薄れゆく意識の中で、私は懸命にリカに叫ぶ。


命を奪われてなお、私はリカに叫んでいた。


「上がっちゃ__ダ、メ」


実際は吐息にもならなかったが__。


それでも私は命が尽きる前に、別の命が一瞬で尽きたのを見届けた。






< 362 / 453 >

この作品をシェア

pagetop