悪魔の運動会
【木崎涼子】
戸田裕貴にバトンを差し出すと、引ったくるように奪って走っていった。
その間にも、伊藤明日香は全速力で駆けていく。
さすがの裕貴も、これだけの距離を一気に埋めるのは無理だと悟ったか、どこか投げやりに走っている。
差が縮まることはない。
少しホッとした私は、直人と目が合った。微笑みはしなかったが、小さく頷く。
私も頷き返す。
その目に、悲しみの色が宿っているのが分かった。
裕貴から聞かされた話は、衝撃的なものだった。失格となったクラスメイトが全員__考えたくない。
同じ組になると直ぐさま、私を励ましてくれた間宮くん。相原さんは結局、私を庇う形で失格となった。
それだけじゃない。皆んなが居なくなったなんて、信じたくはない。それは直人も同じだろう。いや、それ以上かもしれない。
そして更に、ここから1人ずつ削られていく__。
第3走者の2人を見やる。
明日香は逃げるように走り、それを裕貴は追いかける素ぶりはない。
ひょっとしたら__追いかける力がもうないのか?
ここに戻ってきた裕貴の歪んだ顔が、勝ち上がるまでの壮絶さを物語っていた。
それならいいのだけれど。
私は空を見上げる。
雨が、降り出した__。