悪魔の運動会


【戸田裕貴】


前を行く小さな背中を、俺は引っ掴む。


後ろに引き倒して、その腹を力の限り踏みつける。


悲鳴を上げようが泣こうが、そんなことどうでもいい。


内臓をブチまけるまで、俺は何度も何度も踏んでやる。何度も、何度も__。


「ちっ‼︎」


たが現実は、舌打ちするくらいだ。


どんどん伊藤明日香との差が開いていく。


あの女、結構、足が速い。それとも、俺が恐ろしいのか?どちらにせよ、ボッコボコにするチャンスは遠のいていく。


鼻がズキズキ痛む。


足を跳ね上げるたび、頭も割れそうだ。たまに目の前が霞んで見えなくなるほど、体に蓄積されたダメージは大きい。しかも、ここに来て強まった雨足が体力を容赦なく奪っていく。


どこかで仕留めないと、永遠に走り続けるだけだ。


それが分かっているのに、思うように足が動かない。


気がつけば、あの女との差は半周にも及んでいた。


スタートラインで待っている樋口美咲へ、乱暴にバトンを放り投げる。


なにか文句を言ったようだが、地面に倒れこんだ俺の耳には届かない。


たった一周グラウンドを走っただけで、ごっそり体力が抉(えぐ)られてしまった。


肩で息をしながら、打開策を考える。


そうじゃなければ。


俺が落とされる__。



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