悪魔の運動会


【伊藤明日香】


私はずっと全速力で走っていた。


このまま行けば、前を行く木崎涼子の背を捉えることができる。


ようやく1人、失格者を出すことができ、この終わりのない地獄のリレーに、1つ終止符が打てるんだ。


どんどん近づいてくる、涼子の背中。


でも__私は追い抜かない。


私には分かっている。


恐らく気づいていないのは、すっかり抜け殻となった裕貴だけ。


準備体操に余念がない安藤が、真っ直ぐに私を見ていた。


美咲と涼子は、初めっから手加減している。


それは、私と裕貴が触れ合わないようにとの配慮かと思ったが、少しずつ少しずつその差が開いていくのを見て、ようやく悟った。


これは裕貴を落とすための作戦だ。


私が安藤にバトンを渡せば、きっと安藤が裕貴を追い抜くだろう。


その瞬間、あいつは失格となる。


みんなの輪を乱し、ぶち壊すことしか考えていない悪魔を、私たちの暗黙のチームプレーで滅ぼすんだ。


涼子が裕貴にバトンを渡すのを見届けた。だが、受け取り損ねたバトンは、あさってのほうに転げていく。


あの調子ならすぐに、逆転できるだろう。


私が、このバトンさえ手渡せば。


このバトンさえ__。



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