悪魔の運動会
【戸田裕貴】
俺の中にルールなんて言葉は存在しない。
リレーだかなんだか知らないが、そんなことどうだっていい。
この目障りな伊藤明日香をぶちのめす事が出来れば、それでいい。
全員で俺を落としにかかっている。
それくらい、この俺にも分かった。だからあえて協力してやったんだ。必要以上に疲れた振りをし、獲物を誘い込む。あの女を追いかけるのは無理な距離だ。
それなら、罠に引っ掛ければいい。
俺を追い越そうという、その時までジッと我慢をしていた。
それは、俺が追い詰めることのできる距離でもある。
簡単な話、逆走すればいい。
バトンを落とす振りをすると、さらにスピードを上げてくるだろう。そして安藤にバトンが渡り、俺を追い抜く算段だったろうが、あいにくだったな。
バトンをゆっくり拾うと、俺は駆け出した。
間抜け面して立ち止まっている、伊藤明日香に向かって。
この俺を、バットで打ちのめした女。
絶対に、ぶっ殺してやる‼︎
にんまり笑いながら、その距離わずか2メートル。ようやく呪縛が解けたように、背を向けて逃げ出したが、どうやらずっと全速力でグラウンドを回ったのが祟ったらしい。
足がもつれている。
一方、俺は体力を回復するために、力を温存してきた。
逆走する小さな背に、蹴りを食わらせるのは造作もないこと。
伊藤明日香は、派手に地面に突っ伏した。