悪魔の運動会


【戸田裕貴】


俺の中にルールなんて言葉は存在しない。


リレーだかなんだか知らないが、そんなことどうだっていい。


この目障りな伊藤明日香をぶちのめす事が出来れば、それでいい。


全員で俺を落としにかかっている。


それくらい、この俺にも分かった。だからあえて協力してやったんだ。必要以上に疲れた振りをし、獲物を誘い込む。あの女を追いかけるのは無理な距離だ。


それなら、罠に引っ掛ければいい。


俺を追い越そうという、その時までジッと我慢をしていた。


それは、俺が追い詰めることのできる距離でもある。


簡単な話、逆走すればいい。


バトンを落とす振りをすると、さらにスピードを上げてくるだろう。そして安藤にバトンが渡り、俺を追い抜く算段だったろうが、あいにくだったな。


バトンをゆっくり拾うと、俺は駆け出した。


間抜け面して立ち止まっている、伊藤明日香に向かって。


この俺を、バットで打ちのめした女。


絶対に、ぶっ殺してやる‼︎


にんまり笑いながら、その距離わずか2メートル。ようやく呪縛が解けたように、背を向けて逃げ出したが、どうやらずっと全速力でグラウンドを回ったのが祟ったらしい。


足がもつれている。


一方、俺は体力を回復するために、力を温存してきた。


逆走する小さな背に、蹴りを食わらせるのは造作もないこと。


伊藤明日香は、派手に地面に突っ伏した。



< 380 / 453 >

この作品をシェア

pagetop