悪魔の運動会
【伊藤明日香】
寒い。
体中が寒い。
雨による冷えに加え、お腹を何度も蹴り上げられた痛みで、吐き気も止まらない。痛みまで吐き出せるならいいが、込み上げてくるものを堪えるだけで、耐え難い苦痛だ。
突き飛ばされた拍子に、砂を口に含んでしまった。
咳き込むと、蹴られた腹部が悲鳴を上げる。
咄嗟に砂を掴んで裕貴に投げつけようとするも、雨が砂そのものを柔らかくしてしまった。
ぬかるんだ土は、塊となってぼとりと落ちる。
フッと、私を見下ろしてあざ笑う裕貴は私を蹴り続け、なすすべも無く私はそれを受け入れるだけ。
腕でカバーしているが、靴先が容赦なく食い込む。
恐らく__殺される。
その証拠に、蹴るのをやめた裕貴が、目の高さに掲げたバトンに見入る。
今、初めて気づいたというように。
なんだ、これでトドメを刺せばいいじゃないか?
そんな微笑みを浮かべたのが分かった。
ゆっくりと近づいてくる。
這って逃げる私をつま先で小突き、完全に獲物を追い詰めたと余裕の表情だ。
私にはもう力がない。
立ち上がる力も、起き上がる力も、逃げ出す力もない。腕だけで這う、無力な虫のよう。
戸田裕貴はきっとそう確信している。
私の作戦通りに__。