悪魔の運動会
【樋口美咲】
私は思い出していた。
清水奈々とよく、明日香のことをからかっていたことを。
私の場合は蜘蛛だ。
それがどれだけ小くても、見ただけで全身が総毛立って震えが止まらない。でも明日香は、平気な顔をして手のひらに乗せていた。
奈々はお化けだ。3人でお化け屋敷に行った時も、腰が引いて動けない私たちを誘導し、顔色1つ変えなかった。
1番、小柄なのに肝が座っている。
でも、そんな明日香にも苦手とするものが1つだけあった。
「そろそろ鳴るんじゃない?」
耳元でそう囁いただけで、明日香は涙目になる。
極端に雨を嫌っていた。
それは__雷が鳴る恐れがあるからだ。
雨が降り出し、空がピカッと光るだけで明日香は卒倒する。
空を引き裂く雷鳴に、負けないくらいの悲鳴を張り上げるんだ。
ひとたび、雷が鳴ったら最後。
その場にうずくまって動かない。いや、動けない。
だから私は祈っていた。
真っ暗な空を見上げ、ただひたすら祈っていた。
どうか、雷が鳴りませんように。
その前に、あいつを追い越しますように。
それまででいい。
どうかそれまで__。
空が眩しいくらいに光った。
地獄の底から響き渡ってくる雷鳴が、校庭に轟く。