悪魔の運動会


【安藤直人】


伊藤明日香が、戸田裕貴を追い越した。


誰もがそう思った時、いきなり明日香が、スイッチが切れたように倒れ込む。


「ちょっと、なんなの?」


立花薫が、懸命に明日香の名を叫び続ける樋口美咲に詰め寄った。


「明日香は、雷がダメなの。鳴り止むまで動けない」


「うそっ__でも待って。追い抜いたんじゃ?」


その問いかけは俺に向けられていた。


だが、失格者を告げるアナウンスは流れてこない。


追い抜かれないよう、必死で逃げ出した裕貴が、しばらく走ってからようやく異変に気づいた。


体を丸めて震える、伊藤明日香に近づいていく。


その間も、ゴロゴロと予鈴のように雷が笑う。


「もう限界だ」


俺は裕貴を止めようと駆け出した。


これ以上、あいつの好き勝手にはさせない。どうせまた、雷で動けない明日香を痛めつける気だ。失格になってもいい。このまま暴挙を見過ごすわけにはいかない__。


だが、裕貴は途中で止まっている。


泣き声なのか悲鳴なのか、半狂乱の明日香をジッと見ているだけ。


俺がその肩に手をかけようとした時、振り向いた裕貴は走り出した。


速い。


なにかに追われるように、凄いスピードでグラウンドを走っていく。


なにかに、追われ?





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