悪魔の運動会
「まずい」
俺は明日香の元に駆け出した。
もう裕貴は半周まで迫っている。
追われているんじゃない。追うほうなんだ。
明日香が動けないと判断して、逆に一周差をつけて失格させる気でいる。
「俺が代わる‼︎」
明日香が握っているはずのバトンを掴もうと、手を伸ばした。
今、俺にバトンタッチすれば周回遅れにならずにすむ。
だが明日香は聞いちゃいない。
鳴り止まない雷に怯え、貝になっている。
「早く、早くバトンを__」
「一周走らなければ、交代は認めません」
雨にも雷にも負けない、無情の声が校庭に響き渡る。
その途中、裕貴が明日香を追い越した。これで差が無くなった。もう一周走れば、周回遅れとなる。裕貴はスタートラインに立ちふさがる、次の走者の美咲を突き飛ばし、そのまま駆けていく。
「あいつは一周以上走ってるじゃないか⁉︎」
「1人何周でも構いません。ただ、交代は一周以上です」
「そんな__」
俺は呆然と立ち尽くす。
アッといつ間に、あと半周。
「明日香‼︎立って走って!あと少しで交代だから‼︎」
そんな美咲の声も届かない。
俺は強引に立たせようとしたが、すぐに「失格」だと制されてしまう。
こうなったら、裕貴のほうを食い止めれば__?
そんな俺の思惑を知ってか、かなり大回りに軌道修正をした裕貴は__再び伊藤明日香を追い抜いた。
明日香が、周回遅れとなる。