悪魔の運動会
誰も動けなかった。
雷光と雷鳴だけが繰り返される。
未だ起き上がることさえできない明日香と、してやったり顔の戸田裕貴。勝敗は目に見えても明らかだった。
「お前っ⁉︎」
俺は裕貴に突っかかり、そのまま地面に押し倒す。
馬乗りになって殴りかかったが、3発目は食い止められた。
「これが勝負じゃねぇのか?なに熱くなってんだ?」
冷静に下から見上げてくる。
カッとなっているのは俺のほうで、今までそうやってこの運動会をやってきた。
勝つ者がいれば、必ず負ける者がいる。
それが今回は、裕貴が勝って明日香が負けただけのこと。
でも、こいつの反則まがいのやり方は許せない。
「お前は卑怯なんだよ‼︎」
止める手を払いのけて、再び殴りかかる。
「勝負に卑怯もなにもねぇんだよ‼︎」
そう振り回したバトンが横っ面を強打し、マウントを入れ代わった。
組み敷かれたまま、何発か拳が振り下ろされる。
「明日香‼︎」
樋口美咲の声に目をやると、ようやく伊藤明日香が立ち上がったところだった。
雨は相変わらずだが、幾分、雲が薄まって雷が落ち着いたからだろう。
「お前、ここで失格にしてやるよ‼︎」
裕貴が、バトンを持った手を振り上げる。
「お前こそ失格にしてやる‼︎」
体を起こしてその手を抑え込む。じりじりと力比べをしていた俺たちは、次の瞬間、その力を抜くことになる。
あまりに「衝撃的」な、失格者の末路が__。