悪魔の運動会
2周、走った安藤がバトンを突き出した。
明らかにそれまでとは、違った重みが手に伝わってくる。ズシリと感じるのは、命の重みだろうか?
私が駆け出して、半周を走り終えた頃にようやく、白組は3番手の裕貴にバトンが渡った。
全速力で向かってくる。
だが、もし追い抜かれたとしても、1周差がつくことはない。
それに、私には手を出してはこないだろう。私は明日香のようにはいかない。もし襲いかかってくるなら、これ幸いと返り討ちにしてやる。
「ブタ‼︎おせーんだよ!」
口汚く罵りながら、追い抜いていった。
どんどん差が開いていく。
せっかく安藤が稼いでくれたリードが、アッという間になくなった。
胸が焼けるように痛い。
雨が顔を打ちつけ、呼吸もしにくい。
今はまだいい。まだ走る余力がある。けれど__。
安藤にバトンを渡す。
その背中が、さっきまでとは違っていた。これから2周走るとなると、いつか限界がくる。逆に私が2周走ればきっと、虎視眈々と狙っている裕貴が動き出す。
3周を3セット走った頃にはもう、その差が半周となっていた。
「__すまん」
荒い息で差し出すバトンを、私は受け取った。