悪魔の運動会
【樋口美咲】
スタートラインに立ち、駆けていく大きな背中を見送った。
安藤も立花薫も、かなり疲れているようで、その差はたったの半周。もし私が薫を追い越せば、その時点で失格となり__バトンが爆発する。
明日香のように。
昨日まで親しくしていた友人が、目の前で消え去った。
助けることもできず、私はそれを見ていただけ__。
だが、誰かが失格にならない限り、この地獄のようなリレーは終わらない。
そして、終わらせようとしている奴が、真っ直ぐ向かってくる。
「もしかして__?」
側にいた木崎涼子が、小さく呟いた。
そう、戸田裕貴はここにきてスピードを上げた。明日香の時のように、私にバトンを引き継がせずこのまま走る気でいる。そして薫を追い越そうとしているのは明白だ。
それならそれで__事が動く。
だって、誰かが脱落しなくてはこの苦しみは永遠に続くのだから。
「どけ‼︎」
間際に迫った裕貴が、私に向かって怒鳴った。
バトンをよこせと手を出している、私に向かって。
「樋口さん?」
「私は退かない」
それは木崎涼子に言ったのか、自分自身を奮い立たせようと言ったのか、助けてあげられなかった友に向かっての贖罪なのか__。
裕貴の目の色が変わった。
そのまま私に突っ込んでくる。
でも私は、退かない。