悪魔の運動会
「寺脇さん、大丈夫?」
隣で縮こまっている、寺脇リカに声を掛ける。
案の定、返事はない。
そして後ろの方からは、楽しげな笑い声が聞こえてくる。
私は聞こえないようにため息をついた。
職場体験の組み分けをする時点で、未だクラスに馴染めないリカが余ることは想定内。
1人にすることができないから、私が隣に座ることも分かってはいたが、肝心の彼女からはなんの反応もない。
こんなに私が心配しているというのに。
ため息もつきたくなるというもの。
「気分、悪くない?」
普段から顔色が悪いリカだ。車酔いしてるのかどうかも分からない。
でも真っ黒な長い髪から覗く横顔が、どこか苦しげにも見える。
だから私は、通路挟んで斜め前の、新垣先生に尋ねた。
「先生、あとどれくらいかかりますか?」
と。
しかし反応がない。
聞こえなかった?この距離で?
「先生、あとどれくらいで着きますか?」
さっきより大きな声で尋ねたつもりだが、返事はない。
そういえば__今日は静かだ。
いつもなら、私たち生徒が興ざめするくらいうるさいのに。
「あの、先生‼︎」
少し大きな声を出すと、ビクリ‼︎とその大きな肩が震え。
ゆっくり。
本当にゆっくり、先生が振り返った__。