悪魔の運動会
【樋口美咲】
僕が美咲を守るから__。
ふと浮かんできたのは、まだ幼い頃の信吾の声。
大きな背中に背負われながら、幼い頃の記憶が蘇ってくる。
私は小さい頃から、気管支喘息を患っていた。外で走り回って遊ぶ同級生たちを、いつもぼんやりと眺めているだけ。
お人形遊びの相手は、決まって信吾だ。
その頃から体格の大きかった信吾は、もっと男の子たちと遊びたかっただろうが、病弱な私を護る騎士となって、お姫様に仕えていた。
ワガママなプリンセスに。
「信ちゃん、海が見たい‼︎見たい見たい見たい‼︎」
お姫様の唐突な欲求に、涙目になりながらも連れて行ってくれたのは、確か小学2年生の時。
学校の帰り、こっそりと電車に乗って見た海は、夕陽が沈んでいくところだった。
眩しくて眩しくて。
波打ち際ではしゃぎ過ぎたのか。咳が出始めた時にはもう、私は立っていられなくなった。
「美咲、乗って」
信吾が地面に膝をついている。
倒れ込むようにして、その背中に飛び込んだ。
そのまま信吾は、私を家まで背負って帰った。いつの間にか眠ってしまった私を。
夢を見ていた。
「僕が美咲を守るから」
王子様が私にそう、プロポーズをする夢だ。
2人してこっぴどく親に怒られても、信吾は最後まで私を庇ってくれた。
【僕が美咲を守るから】
夢で私は、王子様が差し出した手を、確かに掴んだような気がする__。