悪魔の運動会
「無記名投票」
女性の平坦な声に、僕たちは「えっ⁉︎」と眉を寄せた。
無記名投票ということは即ち、自分に入れるということだ。そんな自殺行為をするのは__。
「木崎涼子、無記名投票により、1票」
みんなからの注目を一手に浴びている木崎涼子本人は、凛と背筋を伸ばして座っている。
その佇まいが、私はなにも間違ったことをしていないと訴えていた。
確かに命を左右する1票ではない。他に誰も木崎涼子に入れるわけがないからだ。だから木崎本人が自分に投票しようと、本人の腹は痛むことはない。
それは木崎の意思表示なのか、決意表明なのか?
「樋口美咲」
静かに名を呼ばれた美咲が、票を伸ばす。
残る票はあと3票。
そのうち1票でも信吾に入れば、信吾が失格になる。
だが__。
「樋口美咲」
その名が再び呼ばれると、教室内の空気が変わった。
4対3。
もし、もしまた樋口に票が入るようなことがあれば、並ぶ?
そんなことって、あるのか?
そう問いかけながらも、実は僕自身【樋口美咲】に投票した。
大縄跳びがどうであれ、今後の競技に大野信吾は欠かせない。大事な戦力を失うわけにはいかない。そんな先のことを考えるクラスメイトが、僕の他に居ただなんて__。