悪魔の運動会
【樋口美咲】
信吾が票を重ねていくのを、私は静かに見守っていた。
木崎涼子が自分に投票した時も、私に4票入った時にも、さほど動じなかった。
女王は、自分を見せないからだ。
偽りの美しい仮面は、弱さを隠してくれる。
やがて喘息が治り、外に出始めると、誰もが驚いたように私を振り返った。
体が丸みを帯びていき、女性としての憂いを伴うとそれは、自分の美しさが人の目を惹きつけるのだと知った。
私は知ってしまったんだ。
無骨な王子だけじゃないことに。私の前に跪く王子様が山ほど居ることに気づいた時、私はたった1人のお姫様から、すべての女王様となった__。
「無記名投票」
そう耳にした時、私は心のどこかで確信した。
「大野信吾、1票」
王子様は最後まで、姫を守ったのだと__。
肩を並べていたグラフ。信吾が一つ、抜け出した。それと同時に、私の中のなにかが、音を立てて壊れた。
仮面が割れたんだ。
信吾が、この後に及んで自分に投票したこと。そしてそれは、私を守るため。我が身を犠牲にして、私を護り抜いた。
この私が【信吾に票を入れたにもかかわらず】だ。
「大野信吾、失格」
私は、目を閉じた。