悪魔の運動会
ガタン‼︎
大きな音を立てて椅子が倒れたのは、信吾が立ち上がったからだろう。
目を閉じる寸前、着ぐるみのウサギと猿が、教室に入ってきた。
失格者を、連れ出すために。
「美咲、大丈夫?」
伊藤明日香と清水奈々が、私の元のへ寄ってきた。女王の恩恵を預かろうという、私のしもべ。でも、体を張ってまで私の盾になることはない。
いくつもの椅子が動き、机が乱れ、激しい息遣いが聞こえる。
私は耳を塞いだ。
なにも見たくない。なにも聞きたくない。なにも。
「み、美咲‼︎」
それでも聞こえてくる。
自分に票を入れた私を罵る声__じゃない。失格者となってまでなお、私を心配する声。私に大丈夫だと語りかける声。その声は、いつも柔らかかった。
柔らかいからこそ、心に突き刺さる。
きっと目を開ければ、私に微笑んでいることだろう。
だから私は、さらにきつく目を閉じた。
それなのにどうして?
どうして見えるの?
目を閉じているのに、どうして?
いつか見た、水平線に沈んでいく真っ赤な夕日が見えた。
眩しくて眩しくて__。
それでも私は決して、瞳を開けることはなかった。