悪魔の運動会
【立花薫】
綱を最初に掴んだのは、戸田裕貴だった。
また負けるかもしれない。
負ければ、クラスメイトを脱落させなければならない。自分たちの票によって、誰かが消え去っていく。
いや、消し去るんだ。
もう2度とごめんだと、誰もが思っていた。
私の頭からも消えない。
ついさっきだ、スタンガンで痙攣した大野信吾の姿。最後まで美咲の犠牲になった。さすがに美咲も顔色を無くしてはいたが__。
だから誰もが、勝負に挑む気力を失っていた。
戦意喪失。これは完全に負け戦だと、私自身も諦めかけていたが__。
「やってやろうじゃねーか‼︎」
裕貴が先頭で綱を引っ掴む。その後ろに野々村哲也が続く。
ヤンキーはホント馬鹿だ。
なにも考えていない。単純。血の気だけ多い。喧嘩っ早い。負けず嫌い。
しかし、この時ばかりは、ヤンキーの単純明快な思考回路が役に立った。
「お前ら、また投票してーのかよ‼︎」
裕貴の怒鳴り声で、ハッと呪縛から解ける。
そうだ、もう2度と勘弁してほしい。投票なんて2度と。そしてそれには、勝たないといけない。いや、勝てばいいだけだ。
全員が綱に手をかける。
でも__と私は思った。恐らく全員が思っている。
もし信吾が居たなら。信吾が居ないのに勝てるのか?
再び弱気の虫が鳴く頃、私は先頭の裕貴に耳打ちした。
「勝つ方法がある」
と。