少女と出会いの逸話
そんなことは別に気にも留めないという態度でいる目の前の森の王、それはかすかに人のにおいがした。ただ単純に、人の匂いが。そして森の匂いと夜の匂いが入り混じったような、そんな匂いがした。そして微かな獣臭。
(おかしなにおいだわ…でも、なんでだろう不思議と心が落ち着くような…なつか、しい?っていうのかな…?なんだろう自分の気持ちが分らない…ふしぎ)
はじめは暗くてわからなかったが黒く微かに綺麗な柄が入ったような布で顔を覆っていた。けれど少女はちっとも、これぽちも怖いとは思わなかった。
転がったままただぼう、と見ていると、横を向いていた森の王はゆっくりと少女を見定めるかのように振り返る。
振り返る拍子に顔を覆っていた布がひらりとめくれ、まるでさっき見た洞窟の青い光のように冷たく、けれどどこか暖かい三友が少女に向けられた。
「お前が人間嫌いという人の子か」
「…えぇ、まぁ、私がその人の子ですよ?」
森の王はまるで、海底の底のような重く澄んだ声で少女に問うた。
少女はその質問の意味がよくぴんとこなかったのか、人というもの自体よくわかっていないというふうに首を横に傾けた。