淡雪
序章
きしきしと、下駄の下で雪が鳴る。
ふぅ、と息を吐き、奈緒(なお)は赤くなった手を擦り合わせた。
数あるお稽古ごとの帰り、日の暮れつつある雪道を急ぐ。
ふと思いついて立ち寄った稲荷神社でお参りをし、踵を返したとき、石段を男が二人、上がってくるのが目に入った。
参拝客にも見えない、髭が伸び、いかにもうらぶれた浪人だ。
髭もじゃと小太りの二人連れは、案の定、奈緒のほうに歩み寄ってくる。
「おお、こりゃあ別嬪なお嬢さんじゃ」
「供も連れずにこのようなところにおるのは感心しませんなぁ」
にやにやと笑いながら、小太りが奈緒の腕を掴んだ。
「放してください!」
咄嗟に振り払おうとした瞬間、雪に足を取られ、転びそうになる。
「ほれ、危ないではないか。わしが担いでやろう」
言うが早いか、髭もじゃはひょい、と奈緒を肩に担ぎあげた。
そのまま、神社の奥に広がる森に連れて行こうとする。
「いやっ! 放して!!」
じたばたと暴れるが、肩の上では逃れようもない。
抵抗空しく、男たちは笑いながら森に足を踏み入れた。
その時。
がらんがらん! と背後で鐘が鳴った。
続いて、ぱん! ぱん! と柏手の音。
男たちは足を止め、振り向いた。
本殿の前に、手を合わせている人物がいる。
男たちは顔を見合わせ、その人物に向き直った。
「おいお前! 何のつもりだ?」
奈緒を抱えている髭もじゃが、声を上げる。
手を合わせていた人物は、ゆっくりと手を降ろすと振り向いた。
格好は髭もじゃと変わらない。
こちらもおそらく浪人だろう。
ただ髭が伸びていないだけで、随分涼やかに見える。
ふぅ、と息を吐き、奈緒(なお)は赤くなった手を擦り合わせた。
数あるお稽古ごとの帰り、日の暮れつつある雪道を急ぐ。
ふと思いついて立ち寄った稲荷神社でお参りをし、踵を返したとき、石段を男が二人、上がってくるのが目に入った。
参拝客にも見えない、髭が伸び、いかにもうらぶれた浪人だ。
髭もじゃと小太りの二人連れは、案の定、奈緒のほうに歩み寄ってくる。
「おお、こりゃあ別嬪なお嬢さんじゃ」
「供も連れずにこのようなところにおるのは感心しませんなぁ」
にやにやと笑いながら、小太りが奈緒の腕を掴んだ。
「放してください!」
咄嗟に振り払おうとした瞬間、雪に足を取られ、転びそうになる。
「ほれ、危ないではないか。わしが担いでやろう」
言うが早いか、髭もじゃはひょい、と奈緒を肩に担ぎあげた。
そのまま、神社の奥に広がる森に連れて行こうとする。
「いやっ! 放して!!」
じたばたと暴れるが、肩の上では逃れようもない。
抵抗空しく、男たちは笑いながら森に足を踏み入れた。
その時。
がらんがらん! と背後で鐘が鳴った。
続いて、ぱん! ぱん! と柏手の音。
男たちは足を止め、振り向いた。
本殿の前に、手を合わせている人物がいる。
男たちは顔を見合わせ、その人物に向き直った。
「おいお前! 何のつもりだ?」
奈緒を抱えている髭もじゃが、声を上げる。
手を合わせていた人物は、ゆっくりと手を降ろすと振り向いた。
格好は髭もじゃと変わらない。
こちらもおそらく浪人だろう。
ただ髭が伸びていないだけで、随分涼やかに見える。
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