淡雪
 奈緒は通りに出たものの、どうしたもんかと男を見た。
 咄嗟に外に出たはいいが、何か用事があったわけではない。

 まして相手は取り立てに来た対談方。
 下手すると、このまま連れ去られて女郎屋に売られてしまうかもしれない。

 いや、でも、あの人は私を助けてくれた。
 そんなことをするような人ではない。

 ぐるぐるそんなことを考えていた奈緒は、ふと顔を上げて、ぎょっとした。
 前方にいた男の姿がない。
 奈緒がぼんやりと考え事をしている間に、どこか角を曲がってしまったのかもしれない。

 焦って、奈緒はきょろきょろと小走りに辺りを流した。
 だがどこにもあの背は見当たらない。

 自分でも不思議に思うほど必死に探し、気付けば奈緒は、あの稲荷神社に来ていた。
 ふぅ、と息をつき、お参りしていこうと石段を上がったところで足が止まる。

 本殿の前に、男がいた。
 あの時のように、本殿に向かって手を合わせている。

 やがて男が振り向いた。
 そこで立ち尽くす奈緒に気付いたようだ。

「……またあんたは、こんなところに一人で」

 どこか困ったように、男が言った。
 やっぱり覚えていたのだ。

「まさか、あんたがあそこのお嬢さんだとはね」

 ぽつりと男が言った。
 気まずい沈黙が流れる。
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