淡雪
「奈緒を壊したのは、あんたかもしれんのだぞ」

「それであっても、借財がなくなった時点で黒坂様に嫁ぐ資格がなくなるのは当然のこと。奈緒様にまだ借金が残っているのであれば、わしのせいかもしれませんが、最早奈緒様には資格もないのですから関係ないですね」

 しれっと言う。
 非情なようだが、もっともである。

 黒坂はため息をついた。
 そこまで非情になれない黒坂は、やはり奈緒をこのまま放っておくことはできない。

「会所に行ってくるか」

「旦那、何を聞いてたんです。今旦那が花街に足を向けるのは感心しませんな」

「けど、あまり悠長にしてる暇もねぇだろ」

「そうでしょうか? 奈緒様は一応お武家なのですから、そうそう町人が手出しはできませぬよ」

 言われて黒坂も身を引いた。
 奈緒の家は、きちんと禄を食んだ御家人だ。
 黒坂のような浪人でもないので、何かあっても町同心などが口を出せるものでもない。
 ただ、だからこそ会所連中は内々で裁きを与えようとするのではないか。

「花街で始末をつけようと思っても、とりあえずは奈緒様の家に連絡は行くはずですよ。町人が、お武家のお嬢様を袋にしたら、それこそ問題ですからね」

「じゃあ……奈緒の実家のほうに行ったほうがいいな」

「それであれば、ついでにちょっとでも借財を回収してきてくださいよ」

 実家なら仕事絡みで行ける。
 花街の騒ぎなど、知らないふりもできるのだ。

「花街のほうは、あっしも注意して動きを見ておきますよ」

 五平が言い、揚羽を伴って外に出た。

「じゃあな。音羽のこと、頼んだぞ」

 黒坂が言うと、揚羽は大きく頷いた。
 そして五平と共に、花街へと帰っていく。
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