淡雪
「何って。お前らこそ何のつもりだよ。情けねぇ真似すんじゃねぇ」

 男が口を開いた。
 そして懐から出した煙管を口に咥える。

「何だと? 貴様、何様のつもりだよ!」

 小太りの男が、男に駆け寄った。
 そのまま掴みかかろうとする。

「やめとけよ。お稲荷さんの境内で、罰当たりな奴らだねぇ」

 煙管を咥えたまま、男は馬鹿にしたように言った。

「ま、そんなところで女を襲おうって奴らだ。言ってもしゃあねぇな」

 口の端を上げて呟いた男は、僅かに腰を落とすと、迫った小太りの男の足を素早く払った。
 手を前に突き出したまま、小太りは、べちゃ、と雪と泥の混じった地面に顔を突っ込んだ。

「ぶはっ! こ、この野郎!」

「は、お前とは足の長さが違うんだよ」

 せせら笑う男に、髭もじゃは肩の奈緒を降ろした。
 そのまま片手で奈緒の首を掴む。

「動くんじゃねぇ! こいつの喉潰すぜ!」

 髭もじゃの怒鳴り声に、ちらりと男の視線が奈緒に向いた。
 髭もじゃは片手で奈緒の両手首を拘束し、もう片方の手で首を掴んでいる。
 奈緒の細い首は、髭もじゃの片手で呆気なく潰れそうだ。

「どこまで腐ってるんだ、お前ら」

 呆れたように言い、男は口から紫煙を吐いた。

「へへ、下手に動けば、あの娘っ子の喉が潰れんぜ。まぁ俺たちゃそっちのほうが面倒がなくていいんだがな。喉を潰しちまえば、叫び声も上げられねぇ」

 薄ら笑いを浮かべ、小太りが泥だらけの顔を拭いながら、ちらりと髭もじゃのほうを見た。
 髭もじゃも、下卑た笑いを取り戻し、首を掴んだ手に力を入れる。
< 2 / 127 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop