淡雪
第三章
「な、奈緒! 何をしているの!」
少し前に届いたばかりの花嫁道具を前にしている奈緒に、母親が叫び声を上げた。
奈緒の前のあらゆる道具は、全て包みが解かれている。
「それはあなたの嫁入り道具よ。それまで大事にしまっておかないと!」
「母上。私、こんなにいらないわ」
前にずらずら並んだ花嫁道具を指して、奈緒が言う。
それに、母親は呆気に取られた。
「な、何を言っているの」
「これだけ売れば、結構なお金になるでしょう? それで借金を返すなり、伊田様にお渡しするお金にするなりすればいい」
「何てこと言うの。そんなこと、あなたは知らなくてもいいの!」
驚いたように言い、母親は勢いよく奈緒の前に座る。
「いいこと? 嫁入りというのは、家と家との儀式でもあるのです。まして伊田様は、父上の上役でもあるのですから、恥ずかしい用意はできません。情けない用意で恥をかくのは、うちだけではないのですよ」
「そんなこと言うけど、そのために借金で首が回らないなんて、そっちのほうが情けないわ。私のためにしてくれてるのはわかってるし、感謝してるけど、そのために父上や母上が後々困るようなことにはなって欲しくないの」
きっぱりと言った奈緒に、母親は黙る。
「良太郎様も、同じ気持ちよ。私が嫁いでくれるだけで十分だって言ってくださった」
「……ありがたいことですけど。此度の婚儀というのは、お前たちの気持ちだけでは済ませられないのよ」
「わかってるわ。父上の昇進がかかっているのでしょう」
いくら世間知らずだからと言っても、この時代、賄賂なしに昇進などできるはずがないことぐらいわかっている。
少し前に届いたばかりの花嫁道具を前にしている奈緒に、母親が叫び声を上げた。
奈緒の前のあらゆる道具は、全て包みが解かれている。
「それはあなたの嫁入り道具よ。それまで大事にしまっておかないと!」
「母上。私、こんなにいらないわ」
前にずらずら並んだ花嫁道具を指して、奈緒が言う。
それに、母親は呆気に取られた。
「な、何を言っているの」
「これだけ売れば、結構なお金になるでしょう? それで借金を返すなり、伊田様にお渡しするお金にするなりすればいい」
「何てこと言うの。そんなこと、あなたは知らなくてもいいの!」
驚いたように言い、母親は勢いよく奈緒の前に座る。
「いいこと? 嫁入りというのは、家と家との儀式でもあるのです。まして伊田様は、父上の上役でもあるのですから、恥ずかしい用意はできません。情けない用意で恥をかくのは、うちだけではないのですよ」
「そんなこと言うけど、そのために借金で首が回らないなんて、そっちのほうが情けないわ。私のためにしてくれてるのはわかってるし、感謝してるけど、そのために父上や母上が後々困るようなことにはなって欲しくないの」
きっぱりと言った奈緒に、母親は黙る。
「良太郎様も、同じ気持ちよ。私が嫁いでくれるだけで十分だって言ってくださった」
「……ありがたいことですけど。此度の婚儀というのは、お前たちの気持ちだけでは済ませられないのよ」
「わかってるわ。父上の昇進がかかっているのでしょう」
いくら世間知らずだからと言っても、この時代、賄賂なしに昇進などできるはずがないことぐらいわかっている。