淡雪
「父上が昇進しないと、借金を返せないだろうこともわかってる。だから、少しでも今返して、小槌屋さんに誠意を見せておくべきよ。私の花嫁道具はいらない。それをお金に換えて、小槌屋さんに持って行くわ。返済の姿勢を見せれば、小槌屋さんだって考えてくれると思う」

「奈緒……」

「嫁入り道具なんて、後からでも用意できるわ。お衣装さえあれば何とかなる。それよりも、今の借金を何とかしましょう。でないとまた、死人が出るかも」

 また蔵宿師を雇うことになったら、その相手をするのは黒坂だ。
 また斬り合いになるかもしれない。

「前の蔵宿師のように、私たちのために人が死ぬのは嫌です」

「あれは、わたくしたちのためとも限りませんよ。ああいった手合いは、とにかく恨みを買うんですから。自らそういった職を選んでいるのですから、こちらが気を遣うことはないのです」

「私の婚礼が穢れるように思うんです」

 実際はそんなことより黒坂の身を案じてのことだ。
 わざわざこちらから刺客を送るようなことはしたくない。

「そうね……。それはそうかも。でもお前にそこまでさせるわけには……」

 なおも渋る母親を何とか説得し、奈緒は用意された嫁入り道具の全てではないものの、大部分を売り払うことに成功した。
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