淡雪
会いたい、というよりは、黒坂のことを聞きたいのだ。
奈緒は黒坂の隣に腰を下ろすと、わざと軽く言った。
「音羽花魁の禿の子が私に突っ込んできて、はずみでどろどろになってしまって。それで、招き屋で乾かしてたんです。そのときにちらっとは会ったんですけどね」
「禿? 揚羽に会ったのか。どこでだ?」
黒坂が奈緒に向き直った。
反応の激しさに、ちくりと奈緒の胸が痛む。
「花街ですよ。友達と、梅を見に行ったんです」
「いつ頃だ」
「……いつだったかなぁ」
黒坂の必死さに気分を害し、奈緒はすっとぼけた。
心に、また黒い染みが広がっていく。
「何でそんなこと聞きたいんです?」
横目で言うと、黒坂は我に返ったように目を逸らした。
が、その目は境内を見回している。
揚羽を探しているのだろう。
「大体何で、黒坂様が揚羽さんのことを知ってるんです?」
「……俺は男だぜ。遊郭に行くことだってあらぁ」
「嘘仰い。黒坂様のような浪人が、招き屋に行けるわけないでしょう。まして花魁に会うだなんて」
「言ってくれるな」
黒坂が、奈緒を見る。
その冷淡な瞳に、奈緒は、しまった、と思った。
心のもやもやに任せて、失礼なことを言ってしまった。
黒坂だって、好きで浪人になったわけではあるまい。
「ごめんなさい。でも気になります」
小さく言うと、黒坂は、少し訝しげな顔をした。
そして視線を前に戻す。
奈緒は黒坂の隣に腰を下ろすと、わざと軽く言った。
「音羽花魁の禿の子が私に突っ込んできて、はずみでどろどろになってしまって。それで、招き屋で乾かしてたんです。そのときにちらっとは会ったんですけどね」
「禿? 揚羽に会ったのか。どこでだ?」
黒坂が奈緒に向き直った。
反応の激しさに、ちくりと奈緒の胸が痛む。
「花街ですよ。友達と、梅を見に行ったんです」
「いつ頃だ」
「……いつだったかなぁ」
黒坂の必死さに気分を害し、奈緒はすっとぼけた。
心に、また黒い染みが広がっていく。
「何でそんなこと聞きたいんです?」
横目で言うと、黒坂は我に返ったように目を逸らした。
が、その目は境内を見回している。
揚羽を探しているのだろう。
「大体何で、黒坂様が揚羽さんのことを知ってるんです?」
「……俺は男だぜ。遊郭に行くことだってあらぁ」
「嘘仰い。黒坂様のような浪人が、招き屋に行けるわけないでしょう。まして花魁に会うだなんて」
「言ってくれるな」
黒坂が、奈緒を見る。
その冷淡な瞳に、奈緒は、しまった、と思った。
心のもやもやに任せて、失礼なことを言ってしまった。
黒坂だって、好きで浪人になったわけではあるまい。
「ごめんなさい。でも気になります」
小さく言うと、黒坂は、少し訝しげな顔をした。
そして視線を前に戻す。