淡雪
第七章
「これは伊田様。どうされました?」
店にふらりと現れた良太郎に、小槌屋が奥から出てきて声をかけた。
「……ちと相談したいことがあってな」
ちら、と周りを窺う良太郎を、小槌屋は、どうぞ、と奥へ誘う。
座敷に入ると、すぐに良太郎は口を開いた。
「高保殿のことなのだが」
「そうでありましょうな」
ずず、と小者が運んできた茶を飲みながら、小槌屋は相槌を打った。
おおよそ見当のついていた話題だ。
「金策は、上手いこといきましたかな?」
「雲行きが怪しいのだ」
「おや、何故。お父上の口利きあってのものでしょう」
「同じようなことを考える者は、父だけではないということだ」
憎々しげに、良太郎も茶を啜る。
どうやら伊田よりも巧みに手を回した者が、左衛門の就くはずだった地位を奪いに動いているらしい。
「おやおやそれは、困りましたな」
「そこでだ。更なる融資をお願いしたいのだ」
「それは、できかねますなぁ」
当然であろう。
前回の融資も、実際できかねた。
奈緒を担保にしたことで実現したのだ。
娘を担保に入れることは、最終手段である。
が、良太郎は、ずいっと膝を進めた。
「高保殿では無理であろう。だから、此度は私が借りるのだ」
「お手前が?」
少し、小槌屋が目を見張る。
「私は今まで借金をしたこともないから、残っている借財もない。家にも問題があるわけでもないのであれば、貸付に問題はなかろう」
つまり、奈緒の代わりに自分が借金を背負おうということだ。
ふぅ、と小槌屋はため息をついた。
「お手前自身に傷がなくとも、高保殿のほうに、がっつり食い込んでいるじゃありませんか。高保殿の借りられた金は、伊田様に流れているのでしょう? 伊田様のご子息であるあなた様が借りたところで、意味があるのでしょうか」
「そうでもしなければ、奈緒殿を守れぬではないか」
言い募る良太郎に、小槌屋は、きらりと目を光らせた。
「ご安心ください。高保様の昇進がなされなかった場合でも、何も手前はお嬢様を廓に売るつもりはありませぬよ。然るべきお人に娶わせるつもりです」
店にふらりと現れた良太郎に、小槌屋が奥から出てきて声をかけた。
「……ちと相談したいことがあってな」
ちら、と周りを窺う良太郎を、小槌屋は、どうぞ、と奥へ誘う。
座敷に入ると、すぐに良太郎は口を開いた。
「高保殿のことなのだが」
「そうでありましょうな」
ずず、と小者が運んできた茶を飲みながら、小槌屋は相槌を打った。
おおよそ見当のついていた話題だ。
「金策は、上手いこといきましたかな?」
「雲行きが怪しいのだ」
「おや、何故。お父上の口利きあってのものでしょう」
「同じようなことを考える者は、父だけではないということだ」
憎々しげに、良太郎も茶を啜る。
どうやら伊田よりも巧みに手を回した者が、左衛門の就くはずだった地位を奪いに動いているらしい。
「おやおやそれは、困りましたな」
「そこでだ。更なる融資をお願いしたいのだ」
「それは、できかねますなぁ」
当然であろう。
前回の融資も、実際できかねた。
奈緒を担保にしたことで実現したのだ。
娘を担保に入れることは、最終手段である。
が、良太郎は、ずいっと膝を進めた。
「高保殿では無理であろう。だから、此度は私が借りるのだ」
「お手前が?」
少し、小槌屋が目を見張る。
「私は今まで借金をしたこともないから、残っている借財もない。家にも問題があるわけでもないのであれば、貸付に問題はなかろう」
つまり、奈緒の代わりに自分が借金を背負おうということだ。
ふぅ、と小槌屋はため息をついた。
「お手前自身に傷がなくとも、高保殿のほうに、がっつり食い込んでいるじゃありませんか。高保殿の借りられた金は、伊田様に流れているのでしょう? 伊田様のご子息であるあなた様が借りたところで、意味があるのでしょうか」
「そうでもしなければ、奈緒殿を守れぬではないか」
言い募る良太郎に、小槌屋は、きらりと目を光らせた。
「ご安心ください。高保様の昇進がなされなかった場合でも、何も手前はお嬢様を廓に売るつもりはありませぬよ。然るべきお人に娶わせるつもりです」