淡雪
 小槌屋の離れで、金吾は難しい顔で膝先に置かれた一房の黒髪を見た。

「これが、音羽花魁の禿のものだ、と仰る」

「その組み紐は、いつも揚羽が髪を括っていたものだ。括っている部分を切ったんだろう」

「で、これを奈緒様から貰った、と」

 頷く黒坂に、小槌屋は眉間の皺を一層深くして呻いた。

「あまり考えたくはありませんが……。あのお嬢様、やはりちょっと危うかったですか」

「……そういえば、そんなこと言ってたな」

 奈緒の様子が少し気がかりだ、と小槌屋は言っていた。

「こういうことを、やらかしそうだと思ったわけか」

「通常でしたら、全く理性的でそんな感じはないのですがね。何か、思い詰めたら何をやらかすかわからない空気は持ってました。音羽花魁と黒坂様のことを聞いていたときも、ちょっと人が変わったような雰囲気でしたし」

 言いながら、小槌屋は黒髪を手に取った。
 まじまじと見る。

「ふ~む……。特に血がついているわけでもありませぬな……。これを二房、ですか」

「音羽も同じものを持っていた。奈緒が、音羽にも送った、と言ってたし。道中にも姿がなかったということは、揚羽は招き屋に帰ってないってことだろう」

「さぁ、それはどうですか。髪を切られ、無様になってしまったから、店に籠っているだけかもしれませぬよ。怪我をしたのかもしれませんし」

 そうであればいいのだが。
 何か悪い予感がしてならない。
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