淡雪
第十二章
朝のうちに、黒坂は稲荷神社に行った。
今までここに来るのは夕方だったが、いつものように神社に行ったら、奈緒に会うかもしれない、と思ったのだ。
まだ神社に行っている、と思われたら、次は何をするか。
被害に遭うのが自分ならいいが、音羽の周りに及ぶかもしれない。
これ以上、下手なことをさせないよう、奈緒に見つからないであろう朝に来たのだ。
とりあえず、揚羽の足取りを追おうと思った。
神社以前のことはわからないが、奈緒が揚羽と会ったのは、ここのはずだ。
ここで何かがあったのではないか。
黒坂は本殿を横に逸れて、林の中に足を踏み入れた。
いつも自分が揚羽と会っていた辺りを見る。
---とはいえ、この辺りじゃ、いつ何時誰が来るかわからねぇな---
本殿近くの林の中は、木立に阻まれて表のほうからは多少隠れることができるが、全く見えないわけではない。
騒げばすぐに気付かれる。
まして相手は子供とはいえ、奈緒だって女子である。
一瞬で黙らすことなどできないだろう。
ちら、と黒坂は、林の奥のほうに目をやった。
本殿横の林は、奥に行くにつれて木々が多くなり、暗くなっている。
天気が悪いわけでもないのに暗いぐらいだ。
さらに奥に進むと禁足地。
一般人は入れない。
---奥は女子一人じゃ、よぅ入らんだろうな。大体神域で、そんな物騒なことをするとも思えん---
そう思い、黒坂は神社を後にし、花街に足を向けた。
今はどの見世もやっていないが、下働きは何かと忙しい。
五平に会えればいいのだが、と思いながら、少し離れたところから招き屋を窺う。
ふと思いつき、黒坂は小槌屋に聞いた横道に入った。
下働きの者が出入りするのは裏口かもしれない。
見世の裏口から少し離れたところで四半刻ほど待っている間、黒坂は招き屋の二階にも目をやった。
音羽の部屋がどの辺りかはわからないが、この建物の中には確かにいるのだ。
ちらりとでも姿を見ることはできないものか、と女々しいことを考えてしまう。
今までここに来るのは夕方だったが、いつものように神社に行ったら、奈緒に会うかもしれない、と思ったのだ。
まだ神社に行っている、と思われたら、次は何をするか。
被害に遭うのが自分ならいいが、音羽の周りに及ぶかもしれない。
これ以上、下手なことをさせないよう、奈緒に見つからないであろう朝に来たのだ。
とりあえず、揚羽の足取りを追おうと思った。
神社以前のことはわからないが、奈緒が揚羽と会ったのは、ここのはずだ。
ここで何かがあったのではないか。
黒坂は本殿を横に逸れて、林の中に足を踏み入れた。
いつも自分が揚羽と会っていた辺りを見る。
---とはいえ、この辺りじゃ、いつ何時誰が来るかわからねぇな---
本殿近くの林の中は、木立に阻まれて表のほうからは多少隠れることができるが、全く見えないわけではない。
騒げばすぐに気付かれる。
まして相手は子供とはいえ、奈緒だって女子である。
一瞬で黙らすことなどできないだろう。
ちら、と黒坂は、林の奥のほうに目をやった。
本殿横の林は、奥に行くにつれて木々が多くなり、暗くなっている。
天気が悪いわけでもないのに暗いぐらいだ。
さらに奥に進むと禁足地。
一般人は入れない。
---奥は女子一人じゃ、よぅ入らんだろうな。大体神域で、そんな物騒なことをするとも思えん---
そう思い、黒坂は神社を後にし、花街に足を向けた。
今はどの見世もやっていないが、下働きは何かと忙しい。
五平に会えればいいのだが、と思いながら、少し離れたところから招き屋を窺う。
ふと思いつき、黒坂は小槌屋に聞いた横道に入った。
下働きの者が出入りするのは裏口かもしれない。
見世の裏口から少し離れたところで四半刻ほど待っている間、黒坂は招き屋の二階にも目をやった。
音羽の部屋がどの辺りかはわからないが、この建物の中には確かにいるのだ。
ちらりとでも姿を見ることはできないものか、と女々しいことを考えてしまう。