淡雪
 うーむ、と考え込む。
 一度きちんと話をしたほうがいいか。

「奈緒のことは、俺が引き受けよう。どうしたいのか、ちゃんと聞く。とりあえずは揚羽のことだよ。こんなナリで置屋に帰すのは可哀想だしな。かといって、無事を知らせないままってわけにもいかん」

「そうですなぁ。揚羽については、うちで預からして貰いますよ。すぐに招き屋に帰っても、見世にゃ出られないでしょうし、買い出しとかにも行けない。外に出るの自体が、まだ危ないかもしれないですしね」

「そうだな。もうちっと髪が伸びるまで、ここにいるといい」

 髪の毛のせいで苛められるのも可哀想だ。
 ぽん、と頭に手を置くと、揚羽は素直に、こくりと頷いた。

「何やら親子のようですなぁ」

「俺はともかく、音羽はおかしいだろ」

「違いねぇ」

 笑いながらも、小槌屋は複雑な気持ちになった。
 黒坂と揚羽が親子であるなら、当然母親は音羽なのだ。
 黒坂の中に、音羽以外の女子はいない。

「いっそのこと、揚羽を養子に貰い受けちゃどうですかい」

「無理だろ。今はこんなナリだが、元々花魁の、一の禿だぜ。次代の花魁候補を、置屋がそうそう手放すかよ」

 傷でもつけられていたのなら、それも可能だったかもしれない。
 だがそこまでのことは、奈緒はしなかったらしい。

「あのぅ。あのお人と旦那様は、どういった関係なのです? あの人、黒坂様は自分の旦那だって言ってましたけど」

 揚羽が、ちょっと棘を含んだ視線を黒坂に向ける。

「もう花魁とも別れるんだから、橋渡しはやめなさいって言われました。旦那様は、花魁を捨てる気なんですか?」

「おいおい。何で奈緒の言うことを信じるんだよ」

「信じてません。旦那様から直接聞いてないのに、そんなこと知りませんって突っぱねたんです。そしたらいきなり殴られて、助けを呼ぼうとしたら首を絞められて……」

「何だって?」

 黒坂が、驚いて揚羽を引き寄せた。
 そして、襟元を少し開く。
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