3年後、あの約束の続き
「章ちゃん、散歩に行くわよ」

ある日、引きこもる俺に見かねたばあばが、無理矢理散歩に連れていった。

「ばあばが昔暮らしていた家にね、あなたと同い年の女の子が居るのよ。誕生日が来たから章ちゃんの方がお兄ちゃんね」
下を向いて歩く俺に、ばあばがそう言葉をかけた。
正直気が乗るわけではなかったが、ばあばに手を引かれて歩いていく。


やがて15分も歩くと、とある家の前に来る。
低い竹垣から、女の人の顔が見えた。

「江都子ちゃん!愛美(エミ)ちゃんも居るかしら?」
ばあばは無邪気に、竹垣の向こうにいる女の人‐つまり彼女の母親 に話しかける。


「あら瀬崎さん。どうぞ入って。ちょうどさっきエミと一緒にクッキーを焼いたんですよ」
そしてにっこりと笑って俺たちを招き入れる。

その笑顔に、少しだけ安心したのを覚えている。


近い年齢の母親の顔は、いつも怒っているか泣いているかだったから。
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